最新・行政の動き
働き方改革関連法(改正労基法)が施行されて2年半余りが経過しましたが、厚生労働省では、猶予措置終了(令和6年3月末)後の取扱いに関する法整備を加速させています。
改正労基法では時間外上限(単月100時間未満、年720時間以内等)を定めましたが、自動車運転・医師の業務、建設の事業等については猶予措置の対象となっています。
このうち、「自動車運転の業務」に関しては、「改善基準」を改正します。労働政策審議会が示した案では、タクシーの場合で、1カ月の拘束時間を288時間、休息期間を1回11時間(週3回まで9時間)等に修正するとしています。
「医業に従事する医師」については、改正医療法により5区分に分けた規制が実施されますが、一般的な医業で年間上限を960時間等と定める省令が公布される予定です。
男女共通・個室トイレの基準整備 事務所則を改正
事務所衛生基準規則と労働安全衛生規則が改正されました。照度の規定(令和4年12月1日施行)を除き、公布日(令和3年12月1日)から施行されます。
オフィス等に適用される事務所則では、まず照度の基準が変わります。現行は精密(300ルクス)・普通(150ルクス)・粗(70ルクス)に3区分されていますが、新基準は一般的事務(300ルクス)・付随的事務(150ルクス)の2区分に整理されました。
トイレについては、現在、従業員規模に関わりなく、男女別設置が必要とされていますが、「小規模オフィスで2個のトイレ設置は非現実」という声もありました。新基準では、同時就業者が10人以内なら、独立個室型(男女共通)で足りることを明確化しました。
それ以上の規模の事業所で、男女別に区分されたトイレのほかに独立個室型も併設する際の基準も整備しました。
工場等に適用される安衛則は、トイレに関し、上記と同様の改正を実施します。備え付けるべき救急用具については、具体的な品目に関する条文をカットします。
調査
厚生労働省「令和3年度・就労条件総合調査」
企業の収支計画を立てる際、従業員1人を雇用するために、どれだけの費用がかかるのか、その目安を知っておく必要があります。
就労条件総合調査では、周期的に「労働費用(現金給与額とそれ以外の労働費用の合計額)」を集計しています。
令和2年(平成31・令和元会計年度)の労働費用総額は40万8140円で、現金給与額とそれ以外の比率は82.0%対18.0%でした。前回調査(平成28年)では80.9%対19.1%だったので、企業は「それ以外」の圧縮により、労働費用総額の低減を図ったことになります。

「それ以外」の内訳をみると、法定福利費が68.6%を占め、退職給付費用(21.8%)、法定外福利費(6.7%)が続いています。
前回調査と比べると、法定福利費は59.9%から68.6%にアップしています。法定福利費(労働・社会保険料等)は、その名のとおり法定で料率が引き上げられると、企業サイドは打つ手がありません。
一方、退職給付費用は23.7%から21.8%に、法定外福利費(住居費用、医療保健の費用等)は8.2%から6.7%にそれぞれ低下しています。企業として工夫ができるのはこうした費用ですが、費用削減のため従業員に負担をしわ寄せした格好です。

身近な労働法の解説
65歳までの雇用確保〜高年齢者雇用安定法(1)
今回は、高年齢者雇用安定法における65歳までの高年齢者雇用確保措置について解説します。
1.高年齢者雇用安定法
高年齢者雇用安定法は、少子高齢化が急速に進行し人口が減少する中で、経済社会の活力を維持するため、働く意欲がある誰もが年齢にかかわりなくその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できる環境整備を図る法律です。
2.高年齢者等職業安定対策基本方針
現在の方針(令2厚労省告示350号)は、令和3年から7年までの5年間を対象期間とし、「事業主が行うべき諸条件の整備に関する指針」において、次のように掲げています。
(1)募集・採用に係る年齢制限の禁止、(2)職業能力の開発および向上、(3)作業施設の改善、
(4)高年齢者の職域の拡大、(5)高年齢者の知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進、
(6)勤務時間制度の弾力化、(7)事業主の共同の取組みの推進
3.60歳未満の定年禁止 (8条)
事業主が定年を定める場合は、その定年年齢は60歳以上としなければなりません。
4.65歳までの雇用確保措置 (9条)
定年を65歳未満に定めている事業主は、以下のいずれかの措置を講じなければなりません。
(1)定年の引上げ
(2)定年制の廃止
(3)65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
継続雇用制度の適用者は原則として「定年後も引き続き働きたいと希望する人全員」です。
「再雇用制度」とは、定年で一旦退職とし、新たに雇用契約を結ぶ制度です。
「勤務延長制度」とは、定年で退職とはせず、引き続き雇用する制度です。
賃金・人事処遇制度の見直しが必要な場合には、次の事項に留意します(高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針〈平24厚労省告示560号〉の一部抜粋)。
(1)年齢的要素を重視する制度から、能力、職務等の要素を重視する制度に向けた見直しに努めること。
(2)継続雇用制度における継続雇用後の賃金については、継続雇用されている高年齢者の就業の実態、生活の安定等を考慮し、適切なものとなるよう努めること。
(3)短時間勤務制度、隔日勤務制度など、希望に応じた勤務が可能となる制度の導入に努めること。
(4)継続雇用制度において契約期間を定めるときには、65歳までの雇用確保を義務付ける制度であることに鑑み、65歳前に契約期間が終了する契約とする場合には、65歳までは契約更新ができる旨を周知すること。また、むやみに短い契約期間とすることがないように努めること。
(5)職業能力を評価する仕組みの整備とその有効な活用を通じ、高年齢者の意欲および能力に応じた適正な配置及び処遇の実現に努めること。
(6)勤務形態や退職時期の選択を含めた人事処遇について、個々の高年齢者の意欲および能力に応じた多様な選択が可能な制度となるよう努めること。
(7)継続雇用制度を導入する場合において、継続雇用の希望者の割合が低い場合には、労働者のニーズや意識を分析し、制度の見直しを検討すること。
高年齢者雇用確保措置を講ずるに当たっては、高年齢者雇用アドバイザーの活用を図ると良いでしょう。
障害者雇用
毎年12月3日から9日までの一週間は「障害者週間」です(障害者基本法9条)。今回は、障害者雇用について解説します。
1.障害者雇用促進法
(1)雇用義務制度
事業主に対し、下表の障害者雇用率(法定雇用率)に相当する人数以上の身体障害者・知的障害者・精神障害者の雇用を義務づけています。
| 区分 | 雇用率 (障害者を1人以上雇用しなければならない事業主の範囲) |
| 民間企業 | 2.3%以上 (常用雇用労働者数43.5人以上) |
| 官公庁・特殊法人 | 2.6%以上 ( 同 38.5人以上) |
| 一部の教育委員会 | 2.5%以上 ( 同 40.0人以上) |
上記( )内の事業主は、毎年6月1日時点の障害者雇用状況をハローワークに報告しなければなりません。
(2)障害者雇用調整金・障害者雇用納付金制度
障害者を雇用することは事業主が共同して果たしていくべき責任であるという社会連帯責任の理念に立ち、事業主間の障害者雇用に伴う経済的負担の調整を図る等のために設けられた制度です。
障害者雇用調整金の支給は、法定雇用率を達成している事業主に調整金が支給されます。
障害者雇用納付金の徴収は、法定雇用率未達成の事業主から不足する障害者数に応じて1人につき月額5万円を納付させるものです。
調整金・支給金の対象事業主は、常時雇用している労働者数が100人を超える事業主です。
(3)差別の禁止・合理的配慮等
同法では、雇用の分野で障害者に対する差別の禁止、合理的配慮の提供義務、相談体制の整備・苦情処理・紛争解決援助等が定められています。
差別の禁止に関する指針では、募集・採用、賃金、配置、昇進、降格、教育訓練などの各項目において、障害者であることを理由に排除することや障害者に対してのみ不利な条件とすることなどが差別に当たるとされています。
合理的配慮に関する指針では、募集・採用時に、視覚障害者に募集内容を音声等で提供したり、聴覚障害者に面接を筆談等で行ったりするほか、採用後は、肢体不自由者に机の高さを調節して作業を可能にする工夫を行う等の配慮が示されています。
2.その他障害者に関する主な法律
障害者に関して、次のような法律が制定されています。
・障害者総合支援法………障害福祉サービス(介護給付・訓練等給付)、就労支援に関する事業(就労移行支援・就労継続支援・就労定着支援)など
・障害者虐待防止法………使用者による障害者虐待(身体的・性的・心理的・経済的等)の防止
・障害者優先調達推進法…国等の公機関が物品やサービスを調達する際、障害者就労施設等から優先的・積極的に購入することを推進する
日本経済の再生に向けた“働き方改革”においては、労働参加率の向上を掲げ、「多様な人材の活躍促進」として女性・若者・高齢者・障害者・外国人等を挙げています。人口減少社会においては、多様な人材が持つ能力・特性を活かして、多様な人々に向けた商品・サービス開発などの新たな価値創造につなげる、ダイバーシティ経営が求められています。障害者雇用に関しては、まずはハローワークにご相談ください。
助成金情報
トライアル雇用助成金(新型コロナウイルス感染症対応(短時間)トライアルコース)
新型コロナウイルス感染症の影響で離職して、これまでに経験のない職業に就くことを希望している求職者を、一定の要件を満たしてトライアル雇用した場合に、事業主に支給される助成金です。
【新型コロナウイルス感染症対応トライアル雇用とは】
① 「新型コロナウイルス感染症対応トライアル雇用」
新型コロナウイルス感染症の影響で離職等を余儀無くされた労働者を、週所定労働時間30時間以上の無期雇用に移行することを目的に3カ月以内の期間を定めて試行的に雇用する制度
② 「新型コロナウイルス感染症対応短時間トライアル雇用」
新型コロナウイルス感染症の影響で離職等を余儀無くされた労働者を、週所定労働時間20時間以上30時間未満の無期雇用に移行することを目的に3カ月以内の期間を定めて試行的に雇用する制度
【対象となる労働者の主な要件】
・令和2年1月24日以降に新型コロナウイルス感染症の影響により離職等を余儀なくされた者(シフトの減少や廃業など離職と同様の場合も含む)
・直近の離職等の日の翌日から起算した離職期間が、紹介日において3カ月を超えている者
・紹介日において、就労経験のない職業に就くこと、およびトライアル雇用を希望している者
【対象となる事業主の主な要件】
・ハローワーク、地方運輸局、職業紹介事業者のトライアル雇用求人に係る紹介により対象者をトライアル雇用した事業主
・対象者に係る紹介日前に、当該対象者を雇用することを約していない事業主
・事業主または取締役の3親等以内の親族以外の対象者を雇い入れた事業主
【支給額】
| 新型コロナウイルス感染症対応 | ||
| トライアルコース | 短時間トライアルコース | |
| 対象労働者一人あたり 支給額(月額) | 最大40,000円 (最長3カ月) | 最大25,000円 (最長3カ月) |
| ※対象労働者がトライアル雇用期間中に、離職、常用雇用への移行等があった場合 | 対象労働者が1カ月間に実際に就労した日数に応じて、所定の計算式で算出した金額 |
【申請の流れ】
① トライアル雇用実施計画書の提出 … トライアル雇用開始から2週間以内
② トライアル雇用終了後 支給申請 … トライアル雇用終了日の翌日から2カ月以内
※詳細は厚生労働省HP等をご参照ください。
特定求職者雇用開発助成金(生活保護受給者等雇用開発コース)
生活保護受給者や生活困窮者の雇用機会の増大および雇用の安定を目的とした助成金です。
地方公共団体などによる就労支援を受けているこれらの人を、ハローワークや民間の職業紹介事業者などの紹介により、継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に対して支給されます。
【対象となる労働者】
1 雇入れ日現在で満65歳未満
2 生活保護受給者または地方公共団体が生活困窮者自立支援法に基づく自立支援計画を作成した生活困窮者(雇入れ日に計画に記載された目標達成時期が到来していない)である。
3 次の①~③のいずれかの就労支援を、3カ月を超える期間にわたり受けている。
① 地方公共団体からの要請に基づくハローワークによる就労支援
② 地方公共団体が実施する被保護者就労支援事業による就労支援
③ 地方公共団体が実施する生活困窮者自立相談支援事業による就労支援
4 対象事業主への紹介時点で失業の状態にある。
【対象となる事業主の主な要件】
1 雇用保険の適用事業主であること。
2 対象労働者を、ハローワーク、地方運輸局または民間の職業紹介事業者等(本助成金に係る取扱いを行うにあたって、届出を労働局長に提出している有料・無料職業紹介事業者等)の紹介によって雇い入れること。
3 対象労働者を、雇用保険一般被保険者として雇い入れ、継続して雇用することが雇入れ時点で確実であること(有期雇用であっても対象労働者が望む限り65歳に達するまで雇用し、かつ、継続して2年以上であること)。
4 対象労働者の出勤状況や賃金の支払い状況などを明らかにする書類を整備保管しており労働局等から提出を求められた場合は応じられること
5 対象労働者の雇入れ日の前日から起算して6カ月前の日から起算して1年を経過する日までに、雇用保険被保険者を事業主の都合によって解雇(勧奨退職も含む)をしていないこと。
※既に自社で内定している人を紹介された場合や、自社で過去3年間に職場適応訓練を受けた人を雇い入れる場合など、支給対象とならないことがあります。
【支給申請】
助成対象期間:雇入れに係る日(原則は雇入れ日直後の賃金締切日の翌日)から起算した1年間
支給対象期間:助成対象期間を6カ月ごとに区分した期間(第1期~第2期)
支給申請期間:それぞれの支給対象期の末日の翌日から起算して2カ月以内の期間
支給申請期間の末日までに都道府県労働局またはハローワークに必要書類を添えて申請します。
【助成額】
対象労働者一人あたり以下の金額が支給されます。

※制度の詳細は厚生労働省HP「特定求職者雇用開発助成金(生活保護受給者等雇用開発コース)のご案内」等をご参照ください。