2021年11月 人事労務だより

人事・労務

最新・行政の動き

 厚労省は、令和4年度にカスタマーハラスメント(労働者が顧客から受ける迷惑行為)対策に注力する方針です。

 令和4年4月からは、労働施策総合推進法によるパワハラ防止措置が中小事業にも義務付けられます。カスハラ対策は直接の義務内容ではありませんが、パワハラ指針では「適切な配慮が望ましい」としています。

 同省では、「企業向けマニュアル」(現在、消費者庁・警察庁などの関係省庁と連携し、作成中)を用い、全国レベルで企業担当者向け研修を実施します。

 同時に、就活ハラ(就職活動中の学生に対するセクハラ等)についても、対策事例集を作成するなど、企業の意識喚起を図る活動を展開します。

ニュース

公取委が「最賃引上げ対応」 中小相手の取引公正化へ

 今年10月の地域別最低賃金引上げは、過去最高の28円の上げ幅となりました。公正取引委員会は、中小企業に不当なしわ寄せが及ばないように、「中小事業者等取引公正化推進アクションプラン」をまとめました。

 関係省庁連絡会議のワーキンググループが、今年8月に「9月を『価格交渉促進月間』とする」決定を行いましたが、アクションプランはその取組みの一環です。

 最賃引上げに伴う「買いたたき」、「下請代金の減額」、「支払遅延」等を防止するため、下請法の執行強化や相談対応の整備等を図ります。

 全国9カ所に相談窓口を設置するほか、オンラインによる相談会も実施します。「下請事業者が、最賃引上げ対応のため単価アップを求めた際、親事業者が一方的に単価を据え置くのは、『買いたたき』に該当」等のQ&Aも作成し、周知を図ります。

雇保「二事業」の資金底つく 雇調金等支出が急増

厚生労働省の公表では、雇用保険制度の収支状況が急激に悪化しています。失業給付関係の積立金残額が大きく減少したほか、雇用保険二事業の資金残高はゼロとなっています。

失業給付関係積立金は、その名のとおり、離職時の基本手当等の原資となるもので、労使折半の保険料が主財源です。

令和元年には4兆4871億円あったのが、3年度(予算)には4039億円まで減少する見通しです。

雇用保険二事業は助成金の原資となるもので、保険料はすべて事業主負担です。雇用調整助成金をはじめとする支出増により、資金残高ゼロと底をついています。

一般会計や失業給付関係積立金残高から借り入れをして、増大する支出をまかなっている状況です。

送検

危険な「裏技」で死亡 ショベルが荷台から転落 高松労基署

 香川・高松労基署は、貨物自動車の荷卸しの際に作業指揮者を選任しなかったとして、土木工事業者を高松地検に書類送検しました。

 事故は、ダンプトラックの荷台からドラグ・ショベルを降ろす際に発生しました。被災者は盛土や道板を設置せず、ショベルに乗車したまま、荷台から降りようとしていました。しかし、ショベルが横転し、腹部がアームの下敷きとなり死亡しました。

 同労基署は、「これは非常に危険な方法だが、インターネット上では『アクロバティック荷卸し』などと紹介する動画がアップされていて、問題視していた」と述べています。

 重量100㎏以上の荷を貨物自動車から卸す際には作業指揮者を選任しなければなりません(安衛則151条の70)が、土木業者は指揮者を指名する等の措置を講ぜず、危険な荷卸しを放置していました。

今月の実務チェックポイント

療養(補償)給付について

今回は、業務または通勤が原因で労働者が負傷あるいは病気に罹患して療養が必要なときに、労災保険から支給される療養(補償)給付等について説明します。

療養(補償)給付とは

業務または通勤が原因で労働者が負傷あるいは病気に罹患して療養が必要なときに、労災保険指定医療機関・薬局等(以下「指定医療機関等」といいます)で、無料で治療や薬剤の支給が受けられる現物給付のことをいいます。業務上の災害が原因で支給される場合を「療養補償給付」といい、通勤災害が原因で支給される場合を「療養給付」といいます。療養(補償)給付には、治療費、入院料、移送費など通常療養のために必要とされる費用が含まれ、傷病が「治ゆ」するまで行われます。

「治ゆ」とは

労災保険において「治ゆ」の概念は非常に重要です。療養(補償)給付においては、「治ゆ」は給付の支給期間の判断の根拠とされます。「治ゆ」とは、次の2つの意味を含んでいます。

① 身体の諸器官・組織が健康時の状態に完全に回復した状態

② 傷病の症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行っても、その医療効果が期待できなくなった状態、すなわち回復・改善が期待できなくなった状態(症状固定)

投薬・理学療法等の治療により一時的な回復が見られるにすぎない場合なども、医療効果が期待できないと判断され、労災保険において「治ゆ」と扱われることがあります。

療養(補償)給付の請求手続

療養を受けている指定医療機関等を経由して所轄の労働基準監督署に、「療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の給付請求書」(様式第5号)または「療養給付たる療養の給付請求書」(様式第16号の3)を提出します。被災後は一刻を争うこともあり、様式第5号等の準備ができていないことがほとんどです。この場合は、指定医療機関等を受診した際に業務上災害であることまたは通勤災害であることを伝えると、指定医療機関等から後日様式を提出するよう求められることがありますので、その際は速やかに指定医療機関等に提出しましょう。

注意点

① 様式第5号を作成する際には、「災害の原因及び発生状況」の欄に、「どのような場所で」、「どのような作業をしている際に」、「どのような物または環境に」、「どのような不安全または有害な状態があって」、「どのような災害が発生したか」が理解できるようわかりやすく記載することが重要です。また、負傷または発病年月日と初診日が異なる場合は、その理由についても記載しましょう。

② 近くに指定医療機関等がないなどの理由で、指定医療機関等以外の医療機関や薬局等で療養を受けた場合であって、その療養にかかった費用を被災労働者が一度全額負担した場合は、後日所轄の労働基準監督署に費用の請求を行います。これを、「療養の費用の支給」といいます。療養の費用を請求する場合には、所轄の労働基準監督署に、「療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の費用請求書」(様式第7号)または「療養給付たる療養の費用請求書」(様式第16号の5)を提出します。

助成金情報

キャリアアップ助成金(諸手当制度等共通化コース)

令和3年度から健康診断制度コースと統合され、また対象となる手当等も改編されています。

有期雇用労働者等に対して、正規雇用労働者と共通の諸手当制度を新たに設けて適用した場合、または有期雇用労働者等に対する「法定外の健康診断制度」を新たに規定し延べ4人以上実施した場合に支給されます。

【対象となる労働者】

・諸手当制度を共通化した日または定期健康診断等の受診日の前日より3カ月以上前から、当該日以降6カ月以上、対象事業主に継続して雇用されている有期雇用労働者等であること

・雇入時健康診断受診日以降6カ月以上の期間、当該対象適用事業所において雇用保険被保険者であること

・支給申請日において離職していない者であることなど(本人の責めに帰すべき理由による解雇など除く)

※期間の定めのない雇用契約、1年以上の雇用契約もしくは契約更新により1年以上雇用が見込まれる者、1週間の労働時間が通常労働者の所定の4分の3以上である者等を除く。

【事業主の要件】

・雇用保険適用事業主

・雇用保険適用事業所ごとにキャリアアップ管理者を置いている

・キャリアアップ計画を作成し、諸手当制度共通化または健康診断を規定する前日までに、管轄労働局長の認定を受けているなど

  

【対象となる手当等の主な要件】

A 諸手当制度共通化…以下の①から④(正規雇用労働者には同時かそれ以前から導入)のいずれかを新たに導入し、実際に支給していること。

① 賞与(6カ月分相当として5万円以上支給)
② 家族手当(月額3000円以上)
③ 住宅手当(月額3000円以上)
④ 退職金(月額3000円以上積立て)

B 法定外の健康診断制度…以下の①から③のいずれかを、実施義務のない有期雇用労働者等に実施する制度を就業規則等に規定し、延べ4人以上に実施していること。

  1.  定期健康診断(事業主が費用の全額を負担)
  2.  雇入時健康診断(事業主が費用の全額を負担)
  3.  人間ドック(事業主が費用の半額以上を負担)

【支給額】

1事業所あたり1回のみ中小企業生産性要件OK大企業生産性要件OK
38万円48万円28.5万円36万円
人数加算(諸手当共通化のみ) 2人目以降20人まで1人あたり 1.5万円1人あたり 1.8万円1人あたり 1.2万円1人あたり 1.4万円
複数手当加算(同時に導入) 2つ目以降4手当まで1つあたり 16万円1つあたり 19.2万円1つあたり 12万円1つあたり 14.4万円

【申請の流れ】

キャリアアップ計画の作成・提出(諸手当制度共通化または健康診断制度等の規定の前日まで)

      ⇩

諸手当制度の共通化 または 健康診断制度等の4人以上への実施

      ⇩

諸手当制度の共通化 または 健康診断制度等の実施後6カ月分の賃金の支給

      ⇩

6カ月分の賃金を支給した日の翌日から起算して2カ月以内の支給申請

※詳細は厚生労働省HP等をご参照ください。

今月の業務スケジュール

労務・経理

  • 10月分の社会保険料の納付
  • 10月分の源泉徴収所得税額・特別徴収住民税額の納付
  • 3月決算法人の法人税・消費税・地方消費税・法人事業税・法人住民税の中間申告・納付

慣例・行事

  • お歳暮の準備・発送
  • 秋の全国火災予防運動
  • 労働時間適正化キャンペーン
  • 職業能力開発促進月間